小学校に入学し、授業が進むにつれて「ひらがなやカタカナを読むのが極端に遅い」「漢字の書き取りがどうしても覚えられない」といった、お子さんの読み書きに関する悩みを抱える保護者の方は少なくありません。
こうしたつまずきは、単なる「努力不足」や「怠け」「練習不足」ではなく、脳の発達特性による「発達性読み書き障害(ディスレキシア)」が原因となっている場合があります。読み書き障害は目に見えにくいため発見が遅れがちですが、放置されるとお子さん自身が「自分は勉強ができない」と自信を失ってしまう原因になります。
今回は、こうしたお子さんの読み書きの習得度を客観的な数値で評価し、適切なサポートにつなげるための標準化検査「STRAW-R(多次元読み書きスクリーニング検査 改訂版)」について、検査でわかることや限界、そして将来の学習支援への活かし方を小児科医が詳しく解説します。
教科書をたどたどしく読んだり、漢字を何度も練習しても書けなかったりするのって、練習が足りないからじゃないかもしれないんだね。それを調べる検査があるの?
STRAW-R(多次元読み書きスクリーニング検査)とは?
STRAW-R(多次元読み書きスクリーニング検査 改訂版)は、小学校1年生から中学校3年生までを対象とした、日本語の読み書き能力を測定するための標準化されたスクリーニング検査です。
ひらがな、カタカナ、漢字などの文字について、それぞれ「正確に読めるか」「正確に書けるか」、そして「どのくらいのスピードで読めるか(読む速度)」を個別に測定します。検査時間は20〜30分程度と比較的短く、お子さんの負担が少ないのも特徴です。
同年齢(同じ学年)の平均データと比較することで、お子さんの読み書きの発達段階が今どのレベルにあるのか、どこでつまずいているのかを客観的に評価することができます。
STRAW-Rで「わかること」と「わからないこと(限界)」
STRAW-Rはお子さんの読み書きのつまずきを浮き彫りにする上で非常に有益な検査ですが、万能ではありません。検査で「わかること」と、検査単体では「わからないこと(限界)」を理解しておくことが大切です。
検査で「わかること」(メリット)
- 読み書きの「正確性」:ひらがな、カタカナ、漢字(各学年相当)がどの程度正しく読めているか、書けているかを客観的に測定します。
- 「読むスピード(速度)」:一見正確に読めているように見えても、一文字ずつたどたどしく読むために「極端にスピードが遅い」といった、見落とされがちなつまずき(読字速度の低下)を数値化して検出できます。
- つまずいている「具体的なポイント」:「促音(っ)や拗音(ゃ、ゅ、ょ)などの特殊音節が苦手」「カタカナだけが書けない」「特定の学年の漢字で行き詰まっている」など、具体的にどの段階でつまずいているかが分かります。
検査の「限界・わからないこと」(注意点)
- 読み書き困難の「根本的な原因」:つまずきがあることは分かりますが、その原因が「視覚的な見えにくさ(眼球運動の問題など)」によるものか、「音と文字の結びつき(音韻処理)」の問題かといった、具体的な原因の特定まではこの検査単体では行えません。
- 「知能」や「認知能力」の全体像:STRAW-Rは読み書きに特化した検査であるため、お子さんの知能指数(IQ)や言葉の理解力、記憶力といった総合的な知能特性を測定することはできません。全体像を把握するためには、WISC-Vなどの知能検査を別途組み合わせる必要があります。
- 他の特性(不注意など)による影響:例えば、ADHD(注意欠陥多動障害)の不注意特性によるケアレスミスなのか、ディスレキシア(読み書き障害)による純粋な書字困難なのかを、STRAW-Rのスコアのみで判別することは困難です。複数の検査や普段の様子から総合的に判断します。
正確に読めていても、読むのにものすごく時間がかかっているお子さんは、授業についていくのが大変でクタクタになってしまいます。そうした「見えにくいしんどさ」を数値化できるのがこの検査の大きなメリットですね。
検査結果をどのようにサポートへ活かすか?
STRAW-Rの結果は、単に「読み書きが苦手」という診断を下すためだけでなく、今後の学習環境の調整や学校への「合理的配慮」の申請に活かすために使われます。
1. つまずきの段階に合わせたピンポイントな学習支援
例えば、「カタカナの書き取りが苦手」と分かれば、そこを重点的に練習します。文字と音を結びつけるのが苦手なお子さんには、文字カードにイラストや色を添えるなど、脳の特性に合った効果的な学習アプローチを選択できるようになります。
2. 学校での合理的配慮の相談
検査結果(数値化されたデータ)があることで、学校の担任の先生や支援級の先生に対して、お子さんの状況を客観的に説明しやすくなります。 具体的には以下のような配慮について相談する判断材料になります。
- 教科書や問題用紙のルビ(ふりがな)を増やしてもらう
- 板書をノートに書き写す代わりに、タブレットで写真を撮る許可をもらう
- テストの制限時間を延長してもらう
- 書き取りテストで、細かいハネ・ハライの減点を緩やかにしてもらう
まとめ
読み書きのつまずきは、早期に客観的な評価を行い、適切な対策を始めることが非常に重要です。なぜなら、読み書きが苦手な状態が続くと、「自分はダメな子だ」という二次的な自己肯定感の低下や、不登校、学習意欲の低下などを招いてしまうことがあるからです。
STRAW-Rのような検査を通じてお子さんの「しんどさ」の理由を客観的に理解し、学校や家庭で適切な合理的配慮や学習環境を整えることで、お子さんはのびのびと自分の得意な能力を発揮できるようになります。学校の勉強や音読でお困りの際は、まずはひとりで抱え込まずに小児科や専門の相談窓口へご相談ください。