「子どもの耳の下がぷっくりと腫れて痛がる…」
「これって、もしかしておたふくかぜ?」
お子さんの耳の下やあごのラインが腫れて痛がるとき、真っ先に疑われるのが「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」です。
しかし、実は耳の下が腫れる病気はおたふくかぜだけではありません。「以前もおたふくかぜと言われたのに、また耳の下が腫れてきた」という場合、何回も腫れを繰り返す「反復性耳下腺炎」という別の病気の可能性もあります。
今回は、おたふくかぜの症状や注意すべき合併症、登園・登校の基準、そしてよく似た反復性耳下腺炎との違いや見分け方について、小児科専門医が分かりやすく解説します。
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)とは?
おたふくかぜは、正式には「流行性耳下腺炎」あるいは「ムンプス」と呼ばれるウイルス性の感染症です。
- 原因病原体:ムンプスウイルス
- 感染経路:咳やくしゃみによる「飛沫感染」、またはウイルスがついた手で口や鼻を触ることによる「接触感染」
- 潜伏期間:2〜3週間(感染してから症状が出るまでにやや時間がかかります)
主な症状と経過
- 耳の下の腫れと痛み
- 耳の前の下あたりからあごのエラ付近にある唾液腺(耳下腺)が腫れて痛みます。最初は片側だけが腫れ、1〜2日遅れてもう片方も腫れてくることが多いですが、全体の2〜3割ほどのお子さんは片側だけしか腫れないこともあります。
- 発熱
- 38度前後の熱が出ることが多いですが、あまり熱が上がらない場合もあります。
- 食事のときの痛み
- 唾液の分泌が促される際、特に酸味のあるもの(柑橘類やお酢など)を食べたり、硬いものをよく噛んだりするときに強い痛みを感じます。
耳の下の腫れは発症後1〜3日でピークに達し、その後徐々に引いていき、通常は1週間から10日ほどで自然に治まります。
見逃してはいけない注意すべき合併症
おたふくかぜは多くの場合、自然に治癒していく病気ですが、時に注意が必要な合併症を引き起こすことがあります。
1. ムンプス難聴(急性高度難聴)
ムンプスウイルスが内耳に侵入することで、片側(まれに両側)の聴力が低下する合併症です。約1,000人に1人の割合で起こると報告されています。一度発症すると聴力の回復が困難なことが多いため、最も警戒すべき合併症の1つです。「呼んでも返事をしない」「テレビの音量を急に上げる」といった様子がないか、治った後もしばらく注意深く見守る必要があります。
2. 無菌性髄膜炎
ウイルスが脳や脊髄を覆っている髄膜に入り込んで炎症を起こす病気です。発熱に加えて「激しい頭痛」「何度も吐く」「ぐったりして首が硬い」といった症状がみられます。疑われる場合は速やかな医療機関での診察が必要です。
3. 精巣炎・卵巣炎
思春期以降の男性がかかると精巣(睾丸)の腫れや痛み、女性の場合は下腹部痛を伴う卵巣炎を起こすことがあります。
お友達が「前におたふくかぜになったのに、また耳の下が腫れちゃった」って言ってたよ。おたふくかぜって何回もかかることがあるの?
おたふくかぜは一度しっかりかかると免疫ができるので、一生のうちに2回かかることはほとんどありません。何度も耳の下が腫れる場合は「反復性耳下腺炎」という別の原因であることが多いんですよ。
何回も腫れを繰り返す「反復性耳下腺炎」とは?
「以前もおたふくかぜと診断されたのに、また腫れてきた…」というご相談を受けることがあります。前述の通り、ムンプスウイルスによるおたふくかぜに何度もかかることは極めてまれです。
耳の下の腫れを何度も繰り返す場合、「反復性耳下腺炎」が疑われます。
反復性耳下腺炎の特徴
- うつらない(周囲への感染性なし):ムンプスウイルスのような流行性のウイルスが原因ではないため、学校や幼稚園のお友達、家族にうつす心配はありません。
- 原因:アレルギー体質や、唾液を分泌する管(導管)の狭さ、口の中の細菌感染、小児期特有の免疫発達のアンバランスなどが複合的に関与していると考えられています。
- 症状が比較的軽い:熱は出ないか、出ても微熱程度であることが多く、耳の下の腫れや痛みも数日から1週間ほどで自然におさまります。腫れの割に本人はいたって元気なケースが目立ちます。
- 成長とともに自然と起きなくなる:1歳〜小学校低学年頃に多くみられ、年に数回腫れを繰り返すことがありますが、唾液腺や免疫が発達する小学校高学年から思春期頃になると自然と発症しなくなります。
【比較表】おたふくかぜと反復性耳下腺炎の違い
2つの病気の特徴を表でまとめました。診察時におたふくかぜか反復性耳下腺炎かの判断が難しい場合、血液検査でムンプスの抗体価を調べて過去の感染歴や今回の原因を確認することもあります。
| 比較項目 | おたふくかぜ(流行性耳下腺炎) | 反復性耳下腺炎 |
|---|---|---|
| 原因 | ムンプスウイルス | アレルギー、唾液腺の形態、細菌など |
| 周りへの感染 | あり(非常に強い感染力) | なし(周囲にはうつりません) |
| 繰り返すか | 基本的に一生に1回のみ | 年に数回繰り返すことがある |
| 発熱 | 38度以上の熱が出ることが多い | 熱は出ないか、出ても微熱程度 |
| 全身状態 | だるさや強い痛みを伴いやすい | 腫れている割に元気なことが多い |
| 主な合併症 | ムンプス難聴、無菌性髄膜炎など | 重篤な合併症は原則としてなし |
| 登園・登校 | 出席停止の基準あり(登園不可) | 本人が元気であれば登園・登校可能 |
おうちでできるケアと食事の工夫
耳の下が腫れて痛むときは、以下のホームケアでお子さんのつらさを和らげてあげましょう。
1. 痛む部分を冷やす
腫れている部分を冷水で絞ったタオルや、冷却シートなどで冷やすと痛みが落ち着きやすくなります。
2. 食事と水分の工夫
唾液が出るときに痛みが走るため、酸味のある食べ物(レモン、みかん、お酢を使った料理など)や、硬くてよく噛む必要がある食べ物は避けましょう。ゼリー、プリン、冷ましたスープ、おかゆ、うどん、豆腐など、噛まずにのどを通りやすい柔らかい食事がおすすめです。
ストローで吸う動作も耳の下に痛みが響くことがあるため、スプーンや小さなコップを使ってこまめに水分を補給してください。
こんな症状があるときは、すぐに小児科を受診してください
- 激しい頭痛を訴える、または何度も繰り返し吐いてしまう
- ぐったりして視線が合わない、意識がもうろうとしている
- 呼びかけへの反応が鈍い、耳が聞こえにくそうにしている
- 腫れが強く赤みを帯びて熱を持ち、高熱が数日下がらない
保育園・幼稚園・学校の登園・登校基準
おたふくかぜは学校保健安全法において「第2種感染症」に指定されており、出席停止期間が明確に定められています。
【おたふくかぜの出席停止基準】
「耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで」
つまり、耳の下が腫れ始めてから最低でも丸5日間はお休みが必要となります。5日を過ぎても腫れが残っていたり、熱が続いていたりする場合は、全身状態が回復するまで登園・登校はできません。
一方、反復性耳下腺炎と診断された場合は感染症ではないため、法的な出席停止の対象にはなりません。痛みが落ち着いて普段通り元気であれば、登園・登校が可能です。
最も有効な予防法は「ワクチン(予防接種)」
おたふくかぜには、インフルエンザのような抗ウイルス薬(ウイルスの増殖を直接抑える薬)がありません。発症した場合は解熱鎮痛薬などで症状を抑える「対症療法」が中心となります。
そのため、重篤なムンプス難聴や無菌性髄膜炎からお子さんを守るためには、事前のワクチン接種が極めて重要です。
推奨される接種スケジュール(計2回)
- 1回目:1歳になったらすぐ(MRワクチンや水痘ワクチンとの同時接種が推奨されます)
- 2回目:小学校入学前の1年間(年長さんの時期:MR第2期と同時期)
おたふくかぜワクチンは現在、任意接種(一部自治体で助成あり)となっていますが、日本小児科学会でも十分な予防効果と長期的な免疫維持のために計2回の接種が強く推奨されています。
まとめ:耳の下が腫れたら自己判断せず小児科へご相談ください
子どもの耳の下が腫れる病気には、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)だけでなく、反復性耳下腺炎やリンパ節炎など様々な原因があります。
周りへの感染力があるのか、登園を控える必要があるのか、注意すべき合併症があるのかなど、原因によって必要な対応が大きく異なります。「以前も腫れたから大丈夫だろう」とご家庭だけで判断せず、耳の下の腫れや痛みに気づいたときは、お気軽に小児科専門医へご相談ください。