毎年冬になると流行を繰り返すインフルエンザ。特にお子さんは高熱が出やすく、時にはインフルエンザ脳症などの重篤な合併症を引き起こすこともあるため、事前の予防対策が非常に重要です。
インフルエンザ予防の柱となるのがワクチン接種ですが、日本では近年、従来の「不活化ワクチン(注射)」に加え、鼻に吹き付けるタイプの生ワクチン「フルミスト(経鼻ワクチン)」が正式に承認され、広く選ばれるようになりました。
このコラムでは、2026年シーズンのインフルエンザ対策として、インフルエンザ感染症の特徴や治療について解説するとともに、これら2つのワクチンの違いや選び方について分かりやすく解説します。お子さんにどちらのワクチンを受けさせるか迷っている保護者の方は、ぜひ参考にしてください。
インフルエンザウイルス感染症とは?その特徴と症状
インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することによって起こる呼吸器感染症です。一般的な「かぜ(感冒)」とは異なり、以下のような強い全身症状が急激に現れるのが大きな特徴です。
- 急激な高熱:突然38℃〜40℃近い高熱が出ます。
- 全身症状:頭痛、関節痛、筋肉痛、全身のだるさ(倦怠感)などが強く現れます。
特にお子さんの場合、急激な体温上昇に伴う「熱性けいれん」や、まれではありますが意識障害などを引き起こす重篤な「インフルエンザ脳症」、肺炎、中耳炎などの合併症を併発することがあるため、注意深く経過を観察する必要があります。
インフルエンザの治療について
インフルエンザと診断された場合、主に以下の3つのアプローチで治療を行います。
1. 抗インフルエンザウイルス薬の使用
ウイルスの増殖を抑えるお薬(タミフル、リレンザ、イナビル、ゾフルーザなど)があります。発症から48時間以内に服用または吸入を開始することで、発熱の期間を約1〜2日短縮し、症状を軽くする効果が期待できます。医師がお子さんの年齢や症状、お薬の吸入ができるかなどを考慮して最適な処方を行います。
2. 適切な対症療法
高熱による体力の消耗やつらさを和らげるため、解熱鎮痛薬を使用することがあります。小児のインフルエンザにおいては、脳症のリスクを高めるアスピリン等の使用は禁忌とされており、安全性が高い「アセトアミノフェン」を使用します。当院で処方された解熱剤、あるいは事前に指示されたものを正しく使用してください。
3. 水分補給と十分な休養
高熱や発汗により脱水症状を起こしやすいため、経口補水液や麦茶、スープなどでこまめに水分を補給します。また、発症から数日は急性脳症に関連する異常行動(急に走り出す、意味のわからないことを言うなど)が見られることがあるため、お子さんを一人にせず、必ず大人が付き添って安静に過ごさせてください。
インフルエンザって熱だけじゃなくて全身が痛くなったり、怖い合併症もあるんだね。予防接種は注射だけだと思ってたけど、鼻のスプレーもあるの?
そうなんです!従来の注射のほかに、鼻に吹き付けるタイプの「フルミスト」という生ワクチンも選べるようになりました。痛くないので注射が苦手なお子さんにも大人気なんですよ。それぞれの違いを見てみましょう!
【一目でわかる】2つのワクチンの比較
まずは、注射のワクチンと鼻スプレーのワクチンの違いを表で比較してみましょう。スマホでご覧の方は、表を横にスクロールしてご確認いただけます。
| 項目 | 不活化ワクチン(注射) | 経鼻生ワクチン(フルミスト) |
|---|---|---|
| 接種方法 | 皮下注射(ちくっとする痛みがあります) | 鼻の中へのスプレー(痛みはありません) |
| 対象年齢 | 生後6ヶ月以上(上限なし) | 2歳以上19歳未満 |
| 接種回数 | 13歳未満:2回(2〜4週間隔) 13歳以上:1回 |
誰でも1回で完了 |
| 予防効果 | 発症および重症化を予防します | 鼻粘膜に直接免疫を作るため、感染予防効果が高いです |
| 効果の持続 | 接種後約1ヶ月〜5ヶ月間 | 接種後約1年間(効果が長持ちします) |
| 主な副反応 | 接種部位の赤み、腫れ、痛み、微熱など | 鼻水、鼻づまり、せき、のどの痛みなど(風邪に似た症状) |
| 受けられない方 | 重度の卵アレルギーなどがある方 | 喘息のある方(最近発作があった場合)、重度の卵アレルギー、免疫不全の方など |
1. 経鼻生ワクチン「フルミスト」の特徴
フルミストは、弱毒化した生きたインフルエンザウイルスを霧状にして鼻腔内にスプレーするワクチンです。日本では2024年秋から公的に接種が開始され、多くのご家庭で選ばれています。
フルミストのメリット
- 注射をしないため痛みが一切ない:「注射が苦手で大泣きしてしまう」というお子さんにとって、最大のメリットです。
- 感染の入り口でブロック:鼻の粘膜に直接免疫を作るため、ウイルスが体内に侵入する(感染する)こと自体を防ぐ高い効果が期待できます。
- 効果が長持ちする:効果の持続期間が約1年と長いため、インフルエンザのシーズンを1回の接種でカバーできます。
- 接種が1回で済む:13歳未満のお子さんでも、1回だけの接種で十分な免疫が得られます。通院の手感や負担が減るのも嬉しいポイントです。
フルミストのデメリットと注意点
- 風邪のような副反応が出ることがある:生ワクチンであるため、接種後3〜7日以内に鼻水、鼻づまり、せき、のどの痛みなどの軽い風邪のような症状が約3〜4割の方に見られます。
- 年齢制限がある:接種できるのは2歳以上19歳未満のお子さん・若者に限られます。2歳未満や19歳以上の方は対象外です。
- 接種できないお子さんがいる:慢性呼吸器疾患(喘息)があり最近発作があったお子さん、重度の卵アレルギーがあるお子さん、ステロイド治療中など免疫機能が低下しているお子さんは、フルミストの接種は避ける必要があります。
- 同居のご家族(特に赤ちゃん)への配慮:生ワクチンのため、接種後に鼻からごく微量のウイルスが排出されることがあります。ご家庭に乳児(特に生後6ヶ月未満の赤ちゃん)がいる場合でも2歳以上であれば接種可能ですが、念のため接種後3〜7日目の期間は、赤ちゃんとの過度な濃厚接触(顔を近づけてのスキンシップや、唾液・鼻水が直接触れるような行為)を少し避け、保護者を含め丁寧な手洗いや手指消毒を行うことをおすすめします。※なお、無菌室での治療が必要なレベルの重度の免疫不全の方が同居している場合は、フルミストの接種は避ける必要があります。
フルミストは痛くないし効果も長持ちするけど、年齢制限があったり、赤ちゃんが家にいるときは手洗いや少しのスキンシップの配慮が必要なんだね。
そうですね。でも、従来の「注射(不活化)ワクチン」なら生後6ヶ月から安全に受けられますし、喘息や卵アレルギーのあるお子さんも基本的には受けやすいという大きなメリットがありますよ!
2. 不活化ワクチン(注射)の特徴
不活化ワクチンは、ウイルスの活性を完全に失わせた成分を腕に注射する、従来からある最も一般的なワクチンです。
注射ワクチンのメリット
- 生後6ヶ月から受けられる:フルミストの対象外となる2歳未満の乳幼児でも安全に接種することができます。
- 確かな実績と高い安全性:長年にわたり使用されてきたワクチンであり、安全性が高く確立されています。生ワクチンのように接種後に感染のような風邪症状が出ることはありません。
- 喘息やアレルギーのあるお子さんも受けやすい:フルミストが受けられない喘息管理中のお子さんでも、体調が安定していれば基本的に接種が可能です。
注射ワクチンのデメリットと注意点
- ちくっとする痛みがある:注射に伴う痛みや恐怖心があります。
- 13歳未満は2回の接種が必要:十分な免疫をつけるために、13歳未満のお子さんは2〜4週間の間隔をあけて2回接種する必要があります。
- 効果の持続期間が比較的短い:効果の持続期間は約5ヶ月間です。そのため、流行期(12月〜3月頃)に合わせて10月〜11月頃に接種を完了させておくのがベストです。
2026年シーズン、どちらを選ぶべき?
小児科医の視点から、どちらのワクチンを選ぶべきかのヒントをいくつか提案します。
- フルミスト(鼻スプレー)が特におすすめのお子さん
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- 注射が極端に苦手で、毎年接種時に大暴れ・大泣きしてしまい困っているお子さん
- 通院回数を減らし、1回で接種を終わらせたい方
- 集団生活(園や学校)でインフルエンザにかかるリスクを少しでも下げたい方
- 不活化ワクチン(注射)を選ぶべきお子さん
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- 生後6ヶ月〜2歳未満のお子さん
- 喘息の治療中で、最近発作が起きたり、吸入薬や内服薬でコントロール中のお子さん
- 卵に対してアナフィラキシーなどの重篤なアレルギーがあるお子さん
※どちらが良いか迷われる場合は、お子さんのアレルギー歴や健康状態、普段のご様子などを踏まえ、当院外来にてご相談ください。
まとめ
インフルエンザワクチンは、お子さん自身を感染から守るだけでなく、一緒に暮らすご家族や周囲への感染拡大を防ぐためにも極めて重要です。痛みのない「フルミスト」が登場したことで、ワクチンの選択肢が広がり、お子さんの負担を大きく減らすことができるようになりました。
2026年シーズンも流行開始前の秋(一般的に10月頃)からワクチン接種がスタートします。予約開始時期や接種スケジュールなどについては、決定次第ホームページやLINE等でお知らせいたしますので、早めのご計画をおすすめいたします。インフルエンザに負けない健康な冬を、一緒に迎える準備をしていきましょう。