2026年、小児のADHD(注意欠如・多動症)診療において大きな転換点となる新しい治療法が登場しました。それが、塩野義製薬が提供する国内初の保険適用・小児ADHD治療用アプリ「エンデバーライド(ENDEAVORRIDE)」です。
「ゲームをプレイすることが本当にADHDの治療になるの?」「内服薬とはどう違うの?」「ゲーム依存になってしまわない?」など、保護者の皆様から多くのご質問やご関心をいただいています。本コラムでは、小児科専門医の視点から、エンデバーライドの仕組みや期待される効果、内服治療との違い、そしてご家庭で取り組む際の注意点まで分かりやすく解説します。
エンデバーライドとは?【国内初の小児ADHD治療用アプリ】
エンデバーライドは、小児期における注意欠如・多動症(ADHD)の治療補助を目的として厚生労働省より製造販売承認を取得し、健康保険が適用される「プログラム医療機器(管理医療機器)」です。
ADHDの治療目標は、症状を完全になくすことではなく、「ADHDの特性と上手に向き合い、日常生活や学校生活で自分の力が発揮できるようになること」にあります。一般的な市販ゲームとは異なり、臨床研究と認知科学に基づいて設計された医療機器であり、医師の診察・処方のもとで専用の「スタートアップセット」を受け取り、ご家庭のスマートフォンやタブレットで使用します。
| 項目 | エンデバーライドの概要 |
|---|---|
| 一般的名称 | 注意欠如多動症治療補助プログラム(管理医療機器) |
| 医療機器承認番号 | 30700BZX00033000 |
| 対象患者 | 不注意・多動-衝動性が共にみられる状態像(混合型)または不注意が優勢にみられる状態像(不注意優勢型)の小児患者さん(6歳以上 18歳未満) |
| 治療スケジュール | 1日約25分(約5分のミッション×5回)、6週間(42日間)継続 |
| 使用デバイス | 保護者またはご本人のスマートフォン / タブレット(iOS・Android対応) |
| 保険適用 | 適用あり(健康保険および各種小児医療費助成の対象) |
ゲーム画面で見るエンデバーライドのプレイと治療の仕組み
エンデバーライドは、横画面のスマートフォンを持ち、近未来的な世界をホバーボードのような機体で疾走するアクションゲーム形式になっています。子どもにとっては「楽しいゲーム」ですが、その裏では脳の前頭前野を集中的に鍛える精密な医学的トレーニングがリアルタイムで行われています。
ターゲットの選別指示(選択的注意)
「指定されたモンスターだけを集め、他のものは無視する」というルールが提示されます。必要な情報だけに意識を集中させ、余計な刺激を遮断する「選択的注意」と「行動抑制力」をトレーニングします。
コース滑走と回避(ステアリング操作)
スピード感あふれるコースを端末の傾きや指先で操作(ステアリング)し、障害物を避けながら進む感覚運動ナビゲーションです。
同時タスクの実行(二重課題:ステアリング+タッピング)
「障害物を避けて滑走する(ステアリング)」と同時に「指定ターゲットを瞬時にタップして捕獲する(タッピング)」という2つの課題を同時に実行。前頭前野の注意配分・実行機能を集中的に活性化します。
デイリーミッションと探検(継続と時間管理)
1日のプレイは5つのミッション(計約25分)で自動終了。やりすぎを防ぎながら、宇宙の惑星を探検し、集めたコインでカスタマイズを楽しめるため、無理なく6週間継続できます。
なぜゲームでADHDの症状が改善するのか?【医学的メカニズム】
ADHDのお子さんの脳では、集中力や行動のコントロール、計画性を司る前頭前野(ぜんとうぜんや)を中心とした神経ネットワークの働きに偏りや微細な遅れがあることが知られています。
エンデバーライドは、お子さんごとに難易度をリアルタイムに自動調整しながら、以下の3つのアプローチで大脳皮質機能(前頭前野)の賦活化を目指します。
① 二重課題(デュアルタスク)刺激
ステアリング(運動制御)とタッピング(認知判断)を同時に行うことで、前頭前野の注意制御ネットワークを集中的に刺激します。
② リアルタイム難易度最適化アルゴリズム
お子さんの操作反応に応じて難易度を自動調整。簡単すぎず難しすぎない「最適な負荷」を維持し続けます。
③ 神経可塑性の促進と継続
1日約25分・6週間の反復トレーニングにより、脳の神経回路ネットワークの活性化と症状改善を促します。
※ ADHDにおけるエンデバーライドの作用機序は、まだ完全には解明されていません。
ゲームだから楽しく取り組めそうだけど、やりすぎてゲーム依存になったりしないか心配だな。
とても大切なご心配ですね。エンデバーライドは医療機器として設計されているため、1日のデイリーミッション(約25分)が終わると自動でその日のプレイが終了する設計になっています。「もっとやりたい」という適度な意欲を残しながら、ゲームのやりすぎを防ぎ、毎日の規則正しい生活リズムを守れるよう工夫されていますよ。
ADHD治療における3本柱とエンデバーライドの位置づけ
小児ADHDの治療は、以下の3つのアプローチを組み合わせ、お子さんとご家庭に合った支援を行うことが基本となります。
- 環境調整・心理社会的治療(第一段階):親ガイダンス、ペアレント・トレーニング、学校との連携、ソーシャルスキル・トレーニング(SST)など、生活環境を整える基本的な支援です。
- 薬物療法:環境調整や心理社会的治療を一定期間(中等度の場合、少なくとも3ヶ月以上)行っても効果が不十分な場合、医師の判断のもとお薬(インチュニブ、ストラテラ、コンサータ等)を組み合わせます。
- 治療用アプリ(エンデバーライド):デジタル技術を活用し、自宅で前頭前野の機能トレーニングを行う新しい非薬物的アプローチです。
| 比較項目 | エンデバーライド(治療用アプリ) | 内服薬(薬物療法) |
|---|---|---|
| アプローチ | 二重課題ゲームによる前頭前野機能の活性化 | 脳内の神経伝達物質(ドパミン・ノルアドレナリン等)の調整 |
| 全身性の副作用 | なし(お薬特有の食欲低下や眠気などの心配がありません) | 食欲不振、眠気、血圧変動、頭痛などの可能性 |
| 子どもの取り組み | ゲーム形式のため自発的・前向きに取り組みやすい | 毎日の服薬管理が必要(飲み忘れや服薬抵抗への配慮) |
| 適したケース | ・お薬の内服に抵抗や副作用の不安がある ・不注意による困りごとを改善したい ・お薬と併用してさらなる改善を目指したい |
・多動・衝動性が強く、学校生活や安全面に切迫した困難がある ・重度のADHD症状で速やかなコントロールが必要 |
医師による使用状況の確認(医師管理画面)
エンデバーライドを処方した医師は、クラウド上の医師管理画面を通じて、患者さんごとの1日の使用回数や使用時間、ミッションの進捗状況などを確認できます。定期受診の際に、実際の取り組み状況を踏まえたきめ細やかなアドバイスやフォローアップを行います。
治療の流れとご家庭での注意点
治療開始までの流れ
- 小児科・専門医での診察:問診や行動観察などを行い、ADHDの特性や適応を確認します。
- スタートアップセットの処方:医師から「スタートアップセット」(外装箱:エンデバーライドキット、起動コード紙、導入冊子)が処方されます。
- アプリのダウンロードとアクティベート:ご家庭の端末にアプリをダウンロードし、起動コードを入力してアカウントを設定します。
- 治療開始と定期受診:1日約25分・6週間のプログラムを進め、定期受診で医師と効果や取り組み状況を確認します。
起動コードがないと、プレイはできません
ご家庭でのポイントと使用上の注意事項
- 集中できる静かな環境づくり
- テレビの音や周囲の会話など気が散る刺激が少ない、落ち着いた場所でプレイすることが効果を高めるコツです。
- 決まった時間帯をルーティンにする
- 「学校から帰って宿題の前に」「夕食の前に」など、毎日の生活リズムの中で決まった時間に組み込むと習慣化しやすくなります。
- 結果ではなく「毎日続けたこと」を褒める
- スコアの良し悪しよりも、「今日もデイリーミッションを最後までやり切れたね!」と、毎日の継続と努力のプロセスを肯定的に褒めてあげることが、お子さんの自信とモチベーションにつながります。
- 使用中の体調変化に関する注意
- 使用中に、イライラして落ち着かない、感情的・攻撃的になる、吐き気、頭痛等の体調変化があった場合は、プレイを中断し医師にご相談ください。
- 機器・端末に関する注意
- ペースメーカーなど電磁波の影響を受ける可能性がある機器をお使いの方は事前に医師にご相談ください。また、端末の過熱(発熱)による火傷等にも注意してご使用ください。
まとめ:ADHDのお子さんの可能性を広げる新しい医療
エンデバーライドの登場により、これまで「環境調整」「ペアレント・トレーニング」「内服治療」が中心だったADHDの治療選択肢に、「自宅で前向きに取り組めるデジタル療法」という新しい可能性が加わりました。
もちろん、アプリだけでADHDのすべての困りごとが解決するわけではありません。ご家庭での関わり方や学校生活での環境調整と組み合わせ、お子さん一人ひとりの個性と発達のペースに寄り添った総合的な支援が何よりも大切です。
「学校の授業に集中しにくい」「忘れ物やケアレスミスが多い」「内服薬以外の治療法も検討したい」など、お子さんの発達や行動で気になることがございましたら、どうぞお気軽に当院へご相談ください。