夏に流行するRSウイルス感染症。赤ちゃんや幼児のほとんどが感染し、まれに重症化することがあります。名前は聞いたことあるけれども、どんなウイルスかよくわからない人が多いRSウイルス。そのウイルスについて・症状・治療などについて、見ていきましょう。
目次
RSウイルスとは
RSウイルスってなに??
RSウイルスとは風邪のウイルスのひとつです。2歳までにほとんどの方が感染すると言われています。多くは鼻風邪で済んでしまうので検査することがないため、ウイルス名や病名を知らない人が多いのです。
グラフでみるとわかるように、初夏~秋にかけて流行する疾患です。新型コロナウイルス流行により2020年度はほとんど流行しなかったRSウイルスが、2021年度は例年の数倍の勢いで流行しました。少しずつ流行の時期が早まってきており、春すぎ〜初夏にかけて流行開始に注意が必要です。
実は毎年すごく流行っている病気なんだね
どんな症状
主な症状は咳・鼻水です。喘息をもともと持っているとゼイゼイすることもあります。年齢が小さければ小さいほど重症化には注意が必要で、特に小さく生まれた赤ちゃん(早産の赤ちゃん)や心臓病をもった方、免疫不全の方、ダウン症の方は症状が悪化することがあります。呼吸が苦しくなったり、ぜいぜいがひどくなったり、熱が長引いたり、大量の鼻水で哺乳ができなくなったりします。
症状はどれくらい続くのかな?
症状は一般的には発熱や咳の発症から6~7日目がピークと言われています。ただ個人差があるため、7日目を過ぎていても症状がしっかりある場合は油断は禁物ですし、反対にまだ3日目でも症状がだんだん落ち着いてきていれば、ピークを過ぎたのかもしれません。
治療法
RSウイルスに対する特効薬は残念ながらありません。
治療は対症療法になります。咳に対しては痰切りの薬や咳止めの薬、ゼイゼイに対しては気管支(空気の通り道)を広げるような薬を内服します。
呼吸が苦しく体の酸素が足りなくなっている場合は、入院して酸素の投与が必要になることもあります。また食事・飲み物がまったく取れないときは、その場合も入院で点滴をすることがあります。
症状 | 対応や、有効かもしれない内服薬 |
---|---|
痰絡み・鼻水 | 喀痰や鼻汁の吸引、去痰薬 ネブライザーでの加湿による排痰(痰を出すこと) |
咳 | 咳止め |
熱 | クーリング(首の後や脇の下など)、辛いときは解熱剤 |
ぜいぜい(喘鳴) | 気管支拡張薬(β刺激薬貼付剤や内服薬など) ネブライザーでの気管支拡張薬の吸入 |
症状をできるだけ軽くしてあげながら回復を待つんだね
予防法
予防法はRSウイルスの感染を防ぐことです。飛沫感染・接触感染で広がるため、しっかり手洗いをする、マスクをするなどの基本的な感染対策が重要になります。
他の風邪と同じで、手洗い・マスクが大事なんだね
抗体接種やワクチンについて
シナジス
小さく生まれた赤ちゃん(早産の赤ちゃん)や心臓病をもった方、免疫不全の方、ダウン症は「パリビズマブ(商品名:シナジス®)」という注射を打つことができます。これは、RSウイルスに対する抗体(武器)を補充する予防法です。そうすることでRSウイルスにかかりにくくしたり、かかったとしても重症化を防げるかもしれないと言われています。
RSウイルスから早産児を守るための情報について、SmallBaby(https://www.small-baby.jp/)でわかりやすくまとめられています。
アブリスボ
妊娠24週から36週(推奨は28週から36週)の妊婦に対して接種するワクチンです。RSウイルスに対する抗体が、胎盤を通じて赤ちゃんに移行し、生後少なくとも6か月の間重症化予防効果があることが示されています。
当院の接種情報ページはこちらから確認することができます。
保育園・幼稚園などの登園について
保育園・幼稚園の登園制限はなく、隔離期間の規定もありません。
※保育園・幼稚園によっては、登園許可書を求められることがあります。施設のルールに従うようにしてください。
他の風邪と同様、周りにうつすリスクはあるため、マスクをつけられる年齢の子はマスクをする、手洗い・うがいを行うなどの対応はしましょう。
ヒトメタニューモウイルス感染症について
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染症も小児で重要な感染症の一つです。RSウイルスよりもさらに聞き慣れないウイルスの名前だと思いますが、RSウイルスと同じ科で、似たような症状を示すウイルスです。
RSウイルス | ヒトメタニューモウイルス | |
---|---|---|
分類 | ニューモウイルス科オルトニューモウイルス属 | ニューモウイルス科メタニューモウイルス属 |
初感染 | 1歳までに50%以上 2歳までにほぼ100% | 2歳までに約50% 10歳までにほぼ100% |
流行時期 | 通年性になってきている | 例年3~6月 |
症状だけでこの2つのウイルスを明確に区別することは難しいです。どちらのウイルスも特効薬はなく対症療法になります。検査をする機会があり、ヒトメタニューモウイルス感染症と診断されたときは、ほぼ全員生涯にかかるウイルスであること、風邪症状で終わることが多いため、過度に心配しすぎず対症療法をして自然に治癒するのを待ちましょう。ただもちろん心配なときには医療機関へ受診するようにしましょう。
まとめ
RSウイルスの概要・疫学・治療・予防について解説しました。
症状の種類や強さは、一人ひとり違います。心配な場合は無理をせず近くの医療機関を受診してください。またぜいぜいが強い、(赤ちゃんの場合は)哺乳ができないなどがあれば夜間でも休日診療所等への受診を検討してください。
この記事を書いた医師
望月 優暁
Masaaki Mochizuki
日本小児科学会 小児科専門医
はまっここどもクリニック 院長
2015年横浜市立大学医学部医学科卒業、横浜市立市民病院、藤沢市民病院、横浜市立大学附属病院、静岡県立こども病院等で小児医療に携わり、2023年に横浜市都筑区に「はまっここどもクリニック」を開院。